2020年02月13日

パニック障害と障害年金

 パニック障害は障害年金の対象にならないと小耳に挟んだ。
 そこで、国民年金・厚生年金保険障害認定基準〔第8節/精神の障害〕(注1)にあたってみた。
 この3ページに「神経症にあっては、その症状が長期間持続し、一見重症なものであっても、原則として、認定の対象とならない。ただし、その臨床症状から判断して精神病の病態を示しているものについては、統合失調症又は気分(感情)障害に準じて取り扱う。」とある。
 これによると、神経症は原則として障害年金の対象とならないが、精神病の病態を示していれば別、ということである。
 神経症とされるものは、社会不安障害(恐怖症)、パニック障害と全般性不安障害、強迫性障害、気分変調症(抑うつ神経症)、解離性障害(ヒステリー性神経症)、身体表現性障害、離人性障害(離人神経症)などがあるそうだ。(注2)
 小耳に挟んだことは原則的な事実のようだ。例外は、精神病の病態を示している場合である。
 さて、それでは労災はどうだろうか。
 厚生労働省の「精神障害の労災認定」(注3)の2ページには、10に分類された「精神及び行動の障害」(注4)が載っている。ここでは、「神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害」というものもある。障害年金では原則対象外の神経症も対象になっているのではないか、とも受け取られる。
 また、「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(注5)の2ページに「対象疾病のうち業務に関連して発病する可能性のある精神障害は、主としてICD-10のF2からF4に分類される精神障害である。」、「いわゆる心身症は、本認定基準における精神障害には含まれない」とある。(注6)
 F2は「統合失調症、統合失調症型障害および妄想性障害」、F3は「気分[感情]障害」、F4は「神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害」である。
 精神障害の労災認定の範囲は障害年金より広そうに見えるが、労災認定に必要な業務遂行性、業務起因性の判断にあたり、(1)認定基準の対象となる精神障害を発病していること、(2)認定基準の対象となる精神障害の発病前おおむね6か月の間に、 業務による強い心理的負荷が認められること、(3)業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められな いこと、の3つが重要な要件として吟味される。(厚生労働省の「精神障害の労災認定」(注3)の2ページ参照)
 以上の、メンタルに関する障害年金と労災の違いは、厚生年金保険法は「・・・労働者の老齢、障害又は死亡について保険給付を行い・・・」(第1条)、労災法は「・・・業務上の事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に対して迅速かつ公正な保護をするため、必要な保険給付を行い・・・」(第1条)とあるように、目的が異なることから、むしろ当然かもしれない。
 一般に障害年金の手続きは難しいことがあるといわれる。その上精神の障害は外からは分かりにくい。国の文書でも、例えば下記の注6を読んでも難解だ。
 受給できるかどうかなど、少しでも疑問がある場合は、年金事務所や労働基準監督署、障害年金・労災に詳しい社労士などに相談して迅速に解決を図った方が良いのはもちろんである。
 (注1)厚生労働省「精神・知的障害に係る障害年金の認定の地域差に関する専門家検討会」第1回(平成27年2月19日)資料2【https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12501000-Nenkinkyoku-Soumuka/0000075327.pdf
 (注2)https://www.mental-health.org/fuan1.html
  (注3)https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/rousaihoken04/dl/120427.pdf
 (注4)国際疾病分類第10回修正版(IC D-10)第5章「精神および行動の障害」に分類される精神障害で、F0〜F9の分類コードが付されている。
 (注5)https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/rousaihoken04/dl/120118a.pdf
 (注6)「精神障害の労災認定実務要領」http://www.joshrc.org/~open/files2011/20120330-001.pdfの3ページに「認定基準が「対象疾病のうち業務に関連して発病する可能性のある精神障害」を「主としてICD-10のF2からF4に分類される精神障害」としているのは、F0は器質性の原因によるものであり、F1は有害物質(精神作用物質)の使用によるものであること、F5からF9は、主として個人の生育環境、生活環境等に基づくものと考えられ、業務との関連で発病することはほとんどないことによる。」とあり、「また、「いわゆる心身症は、本認定基準における精神障害には含まれない」としているのは、心身症が精神障害の1つと誤解されている面があるが、その定義が、「その発病や経過に心理、社会的因子が密接に関与する身体疾患を言うが、神経症やうつ病など他の精神障害を伴う身体疾患は除外する」とされ、明確に区別されている・・・」とある。


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Posted by 青山拓水 at 14:31│Comments(0)年金
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