2018年11月18日

認知症保険

 ある金融機関の窓口で「認知症保険」というものの紹介を受けた。パンフレットを後で見たら、正式には「◯◯◯◯認知症治療保険」である。
 窓口では、認知症と診断されると一時金が出る、認知症になったら元が取れる保険、ということだった。なんか勿体無い保険だ、この種の保険には入らないことにしてしている、元が取れない確率が高い保険ではないか、とは言い出さず、最後まで黙って説明を聞いた。
 パンフレットには、「・・・意識障害のない状態において所定の見当識障害があると診断確定され、その状態が180日継続した時に認知症治療保険をお支払い・・・」となっていた。三大疾病保険もそうだが、要件は厳しい。診断されてもすぐには出ない。半年も待たねばならない。だが、実際一時金を受け取る時には確かに嬉しいだろう。ある人が入院して医療保険を受け取り、喜んでいたのを思い出した。この時の医療費だけと比べれば保険のありがたさが身に染みたかもしれないが、それまでに払った保険金の合計額と比べて黒字だったのかどうか、もしかしたら赤字かも、とは、嬉しそうに話す前では言い出せなかった。
 さて、認知症になる場合に備えて、後見制度等の利用のこともやっておかねばならない。見当識障害をネットで見ると、時間や場所、相手等が識別できない、という状態のようである。ボケのことだ。こうなってからでは保険金の請求など本人は出来そうもない。この種の保険は後見人等の制度とセットで考えねばならない。保険に入ったから安心、ということにはならない。だから、保険の加入だけを勧めるのは、いただけないと思う。もとより、保険だから、保険効果など保険そのものの良し悪しをを考えるのが第一ではある。
 手元の資料では、85〜89歳で約4割、90〜94歳で約6割、認知症高齢者の割合である。80〜84歳だと約2割、年齢を重ねると急上昇である。95歳以上では約8割となっている。先日のNHKで、サ高住の問題をやっていて、この番組では確か80代の5割強が認知症と言っていた。男性の平均寿命は約80歳、2割の認知症組に入る前に昇天する人が半分ほど、と思えばいいか。女性の平均寿命は80歳後半になろうとしているので、そうすると、4割に入る可能性とその対策を考えねばならない。対策といっても、お金である。軍資金がなければ手も足も出ない。そこで、認知症保険というものが出てくるのであろう。
 FV関数というのがある。複利積立の結果を出すのに使える。パフレット記載の数字から、保険料を払ったと思って積立運用した場合を計算して見ると、60歳で保険に入って80歳で保険料100万円を受け取る場合、毎月の保険料は男性が1,168円、女性だと1,902円である。運用期間は20年、保険料総額は男性約28万円、女性約46万円、運用利率3%として20年後には男性約38万円、女性約62万円となった。
 パンフレットには、介護費用が1年目で約130万円、5年間で約330万円となっている。この額を目標に、若いうちからコツコツ貯めたらどうなるか。
 例えば、40歳加入では100万円の保険金に対する毎月の保険料は男性502円、女性は863円、保険料総額は男性約24万円、女性役41万円となる。毎月3%で積み立てて40年運用後は、男性約46万円、女性約80万円となった。ほぼ積立額の倍となる。
 これが10%だとどうなるか。男性は約317万円、女性は546万円である。途方もない数字だが、あるサイトで試算すると結果が30万円から60万円ほど少なくなった。ある結果をそのまま鵜呑みにしないことが必須という証左だが、それにしても、複利効果は絶大である。アインシュタインは、複利を人類最大の発明と呼んだそうだが、貯蓄に励む人は、複利効果を得る運用を心がけるべきである。
 iDeCoは掛金が所得控除なので、所得税率が10%の人は、掛金年額の10%が年末調整で還付される。税率15%なら15%の還付率となる。単利である。複利のように雪だるま式に増やす仕組みは働かないが、年末調整で還付されたお金は1年間の掛金の利息と思って、大切にしたい。
 保険は通常では到底対応できない場合に備えるもの、という原則からいうと、認知症保険、5年間で300万円強必要というのなら、これくらいは貯蓄で対応すべきであろう、というのが私見である。出るか出ないか分からないし、貯金で多分払える範囲のものに、あえて払う必要があるのか、こういうお金は、掛金というよりは、賭金になってしまうのではないだろうか。貯蓄なら手元で増やせる。保険料は保険会社に差し上げてしまうお金になるかもしれない。その確率は、認知症になる確率を1から引いた数字となる。80代では、約5割の確率で失う。高齢者にとってお金は命綱。お金のない親には子供も寄り付かない。金の切れ目が縁の切れ目。
 保険は高い買い物とはよくいったもの。よくよく考えねばならない。  


Posted by 青山拓水 at 19:07Comments(0)FP