2020年12月26日

国民年金の費用効果一考

 ある証券会社のオンラインセミナーでGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の運用状況の紹介があった。調べてみると、2020年度第2四半期で、運用開始した2001年度以降の累積収益額は74兆9,483億円、運用資産額167兆5,358億円、収益率は3.09%(年率)ということだった。(*1)
 東証1部の株式平均利回りを見ると、2020年11月の有配会社平均利回りは1.95%、加重平均利回りは2.23%となっている。(*2)
 また、JREITの分配金利回りは平均4.13%(2020/12/25時点)であった。(*3)
 東証、JREITとも平均値であり、個々に見るとかなりのばらつきがあることに留意しなければならない。
 最近訃報をもらった。S社のIさん、89歳で老衰とあった。この歳まで籍を置いてくれるS社も大したものだが、私も後何年年金を受けられるのか、何年この世に居られるのか、気になるところだ。
 年金もよく改正があり、75歳まで繰り下げ可能となるとのことだが、そこまで伸ばすのはいささか勇気のいることと感じる。利回りはどんなものだろう。
 国民年金の老齢基礎年金の満額(保険料40年間完納)は781,700円(*4)、毎月の保険料は16,540円(令和2年度)である。(*5)
 仮にこの保険料額で40年間納めたとすると、7,939,200円となり、単純に計算すると、これで毎年781,700円受け取るのだから、年利は約9.85%となる。先に見たGPIFや東証、JREITと比べるとかなりの高利回りだ。それに保険料に対しては社会保険料控除による所得税の減額もある。これを加味すればかなりお得である。
 だが、保険料を40年もかけて完納するのだから、これが1円も増えないということはないだろう。積立額は年金終価係数、あるいは金融電卓で概算が出せる。例えば、毎月1万円で40年間、年2.4%(月利換算0.2%)で積み立てると、804.6万円となる(*6)。この1.654倍は1,330.8万円である。年金終価係数の計算式で計算してみたが同様の結果となった(計算式は*7を参照した)。
 これを分母に、781,700を分子にしてみると、約5.87%となる。
 また、年3.6%だと1,070.5×1.654=1770.6万円で利回り年4.41%、年4.8%では1,448.7×1.654=2,396.1万円で利回り年3.26%となった。
 これが終身で受け取れるのである。
 公的年金も、将来の果実を期待してのものであるという点では投資と同じと見ることもできる。すると、金融商品の1種と言えなくもない。信頼性や利回りからは、相当に魅力的な投資先である。もっとも、国民年金にせよ厚生年金保険にせよ、一定の要件を満たせば法律上強制加入であり、投資というには不適切であるが、国民年金保険料の納付率を見ると、最近では3/4ほどであり(*8)、さらに、障害年金や遺族年金には保険料納付要件というものもあって、これらからすると、未納で失うものはかなり大きいと思われ、老後の生活設計を考えると、公的年金は大切な柱であると、改めて感じざるを得ない。
 
*1 https://www.gpif.go.jp/operation/2020-Q2-1106-Jp_880369.pdf
*2 https://www.jpx.co.jp/markets/statistics-equities/misc/03.html の「株式平均利回り(2020年11月)」より
*3 http://www.japan-reit.com/list/rimawari/
*4 https://magazine.tr.mufg.jp/90306
*5 https://www.nenkin.go.jp/service/kokunen/hokenryo/20150313-02.html
*6 https://navi.smbcnikko.co.jp/webasp/smbcnikko/reserve/sim2.aspx
*7 https://www.iseeit.jp/ec-sub-060718-3.php
*8 https://www.mhlw.go.jp/content/12500000/000712062.pdf  


Posted by 青山拓水 at 21:52Comments(0)年金

2020年03月21日

健保・厚年の被保険者要件の整理5(適用除外)

 健保、厚年共通で被保険者とならないもの(適用除外)として次の場合がある。

a 臨時に使用される者であって、「日々雇い入れられる者(一月を超えて引き続き使用されるに至った場合を除く)」または「二月以内の期間を定めて使用される者(所定の期間を超え、引き続き使用されるに至った場合を除く)」
b 所在地が一定しないものに使用される者・・・巡回興行(サーカス等)、養蜂業などが該当とされる
c 季節的業務に使用される者(継続して四月を超えて使用されるべき場合はを除く)・・・スキー場、除雪、清酒製造(杜氏業務)など季節によってなされる業務
d 臨時的事業の事業所に使用される者(継続して六月を超えて使用されるべき場合を除く。)・・・博覧会など

 以上は健保法3条、厚年法12条の定めによる。条文の文言にいささかの差異はあるが取り扱いは同じようである。


 両条では上記以外の適用除外の規定もあるが、細かくなるのでここでは省き、健保で日雇特例被保険者であれば上記の適用除外に含まれないとされているので、それについて触れたい。

 日雇特例被保険者は健保法3条2項で、「「日雇特例被保険者」とは、適用事業所に使用される日雇労働者をいう。ただし、後期高齢者医療の被保険者等である者又は次の各号のいずれかに該当する者として厚生労働大臣の承認を受けたものは、この限りでない。」と定められている。(条文中の但し書きについては後述。)
 日雇特例被保険者以外の被保険者は「一般被保険者」と称されることが多い。

 日雇労働者については、健保法3条8項で次のように定められている。
a 日々雇い入れられる者(同一の事業所において、一月を超えて引き続き使用されるに至った場合を除く)
b 二月以内の期間を定めて使用される者(同一の事業所において、所定の期間を超え、引き続き使用されるに至った場合を除く)
c 季節的業務に使用される者(継続して四月を超えて使用されるべき場合を除く。)
d 臨時的事業の事業所に使用される者(継続して六月を超えて使用されるべき場合を除く。)

 なお、a、bについて、所在地の一定しない事業所において引き続き使用されるに至った場合は除外されず日雇労働者となる。

 ただし、後期高齢者医療の被保険者等である者又は次のいずれかに該当する者として「厚生労働大臣」の承認を受けたものは、除かれる。


 次のいずれかとは、「適用事業所において、引き続く2月間に通算して26日以上使用される見込みのないことが明らかであるとき」、「任意継続被保険者であるとき」、「その他特別の理由があるとき」である。
 このうち、26日以上とあるのは、日雇特例被保険者が保険給付を受けるについては就労日数が2ヶ月で26日以上又は6ヶ月で78日以上という要件があるためである。

 なお、手元の解説書には、特別の理由として、次の場合が載っている(昭34.7.7保発58号、昭和35.8.18保発59号)
a 農業、漁業、商業等他に本業を有する者が臨時に日雇労働者として使用される場合
b 社会保険各法の被扶養者である昼間学生が休暇期間中にアルバイトとして日雇労働に従事する場合
c 社会保険各法の被扶養者である家庭の主婦その他の家事専従者が、余暇を利用して内職に類する日雇労働に従事する場合であって、日雇労働に従事することを常態としていない場合


 以上から、一般被保険者の適用除外と日雇特例被保険者とは要件が概ね逆になっており、一般被保険者にならなくても日雇特例被保険者として健保に加入できる道があることが分かる。  


Posted by 青山拓水 at 11:33Comments(0)年金

2020年03月13日

健保・厚年の被保険者要件の整理4(使用される者)

 健保・厚年の適用要件の一つである、適用事業所に「使用される者」についての主な事項。

(1)使用される者については、実質的な使用関係が必要である。

(2)名目的な雇用契約があっても、事実上の使用関係がない場合は、使用される者とはならない。

(3)法人の理事、監事、取締役、代表社員及び無限責任社員等法人の代表者又は業務執行者であつて、・・・、法人から、労務の対償として報酬を受けている者は、法人に使用される者として被保険者の資格を取得させる・・・。(昭和24.7.28保発74号)

(3−1)上記につき、法人に非ざる社団又は組合の総裁、会長及び組合及び組合長等その団体の理事者の地位にある者、又は地方公共団体の業務執行者についても同様な取扱・・・。(昭和24.7.28保発74号)

(4)個人の事業所の事業主は被保険者にならない。

(5)労働組合専従者は、従前の事業主との関係においては、被保険者の資格を喪失し、労働組合に雇用又は使用される者としてのみ被保険者となることができる。(昭和24.7.7職発921号)

(6)本採用前の試用期間中も原則として被保険者となる。

(7)日本国籍を有しない者でも被保険者になることができる・・・「適法に就労する外国人に対しては、短時間就労者も含めて日本人と同様の取扱いをするものであることから、適用事業所と実態的かつ常用的な使用関係のある被用者については、被保険者資格取得届の届出漏れ及び届出誤りのないよう適用の徹底を図ること。・・・(平成4.3.31保険発38号、庁文発1244号)  


Posted by 青山拓水 at 18:30Comments(0)年金

2020年02月29日

健保・厚年の被保険者要件の整理3(被保険者)

 健保・厚年の適用要件は(1)適用事業所に雇用されていること、(2)勤務日数等の要件を満たしていること、の二つである。

(1)については、健保=「被保険者」とは、適用事業所に使用される者及び任意継続被保険者をいう(健保法3条)、厚年=適用事業所に使用される七十歳未満の者は、厚生年金保険の被保険者とする(厚年法9条)、とされている。

(2)の勤務日数等の要件は次に該当することである。
 1週間の所定労働時間及び1か月の所定労働日数が同じ事業所で同様の業務に従事している一般社員の4分の3以上であること(いわゆる4分の3要件)。

 ただし、上記に該当しなくても、次の全てに該当すれば被保険者となる
 a 週の所定労働時間が20時間以上あること
 b 雇用期間が1年以上見込まれること
 c 賃金の月額が8.8万円以上であること
 d 学生でないこと
 e 被保険者数が常時501人以上の法人・個人の適用事業所、及び国または地方公共団体に属する全ての適用事業所に勤めていること(501人未満の法人・個人の適用事業所であっても、労使合意に基づき申出をした場合は適用される)

 なお、a〜dは健保法3条1項9号及び厚年法12条1項5号に、eは年金機能強化法(公的年金制度の財政基盤及び最低保障機能の強化等のための国民年金法等の一部を改正する法律)の附則第17条第1項及び第46条第1項に定められている。
 根拠法令がまとまっておらず、あまり言いたくないが、分かりにくい法体系である。

 参考 「社会保険の加入についてのご案内」https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/jigyosho-hiho/jigyosho/20150518.files/1101.pdf
 
 年齢要件について、健保の場合は75歳未満(75歳からは後期高齢者医療の被保険者になる)、厚年は70歳未満である。  


Posted by 青山拓水 at 19:27Comments(0)年金

2020年02月28日

健保・厚年の被保険者要件の整理2(任意適用事業所)

健保・厚年の任意適用事業所
 適用事業所でないところは、被保険者となり得る者(注1)の2分の1以上の同意を得て、厚生労働大臣に申請し認可を受ければ適用事業所とすることができる(健保法31条、厚年法6条)。この場合は不同意の者も加入対象となる。
 また、適用事業所がその要件を欠くこととなった場合(個人事業所で常時勤務の従業員が5人未満になった場合等)については、そのまま任意適用事業所としての認可があったものとみなされる(健保法32条、厚年法7条・・・ただしこの措置は厚年の船舶の事業所は除かれている)。
 任意適用事業所は、被験者である従業員の4分の3以上の同意を得て、厚生労働大臣に申請し認可を受ければ適用事業所でなくすることができる(健保法33条、厚年法8条)。

(注1)「被保険者となり得る者」(被保険者要件)は次回以降に記載。

 以上、任意適用事業所については、健保、厚年ともほぼ同一である。  


Posted by 青山拓水 at 17:36Comments(0)年金

2020年02月27日

健保・厚年の被保険者要件の整理1(適用事業所)

 健康保険。厚生年金保険(以下、健保・厚年と略す)の被保険者となるためには、事業所要件と労働条件要件を満たす必要がある。
 事業所要件というのは、「適用事業所」かどうかということである。原則として、適用事業所に勤めている必要があるが、例外的に、適用事業所に勤めていなくても被保険者になることができる場合がある。
 なお、下記のように、法人の事業所は業種、人員規模を問わず適用事業所となる。つまり、株式会社など法人に勤めていれば、事業所要件は満たしている。個人事業所の場合は一定の制約がある。

適用事業所
 健保・厚年の適用は事業所単位であり、適用される事業所の要件が定められている。
 ただし、適用事業所に該当しなくても、一定の要件を満たしていれば適用事業所となることができる。「任意適用事業所」といわれる。
 適用事業所は法人と個人とで扱いが異なっている。
 法人は業種、人員規模を問わず適用事業所となる。
  個人の場合は、特定の業種(いわゆる法定16業種)かつ常時5人以上の従業員がいれば適用事業所となる。法定16業種でないか、法定16業種でも従業員5人未満だと適用事業所とはならない。この場合は任意適用事業所となる方法がある。
 法定16業種は、次の業種以外はほぼ対象となっている。
 除外業種・・・農林水産業等の第一次産業、飲食、理美容等のサービス業の一部、弁護士、公認会計士等の法務関係業と宗務業など。
 以上は健保・厚年共通の適用事業所だが、厚年独自の適用事業所として、一定の船舶がある。この場合は船舶所有者が適用事業所の事業主となる。

 適用事業主に勤め、一定の要件を満たせば健保・厚年の被保険者資格を取得する。雇用主は従業員の資格取得の届出義務がある(健保法48条、厚年法27条)。届出義務を怠ると罰則(六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金)の対象となる(健保法208条、厚年法102条)。  


Posted by 青山拓水 at 07:12Comments(0)年金

2020年02月13日

パニック障害と障害年金

 パニック障害は障害年金の対象にならないと小耳に挟んだ。
 そこで、国民年金・厚生年金保険障害認定基準〔第8節/精神の障害〕(注1)にあたってみた。
 この3ページに「神経症にあっては、その症状が長期間持続し、一見重症なものであっても、原則として、認定の対象とならない。ただし、その臨床症状から判断して精神病の病態を示しているものについては、統合失調症又は気分(感情)障害に準じて取り扱う。」とある。
 これによると、神経症は原則として障害年金の対象とならないが、精神病の病態を示していれば別、ということである。
 神経症とされるものは、社会不安障害(恐怖症)、パニック障害と全般性不安障害、強迫性障害、気分変調症(抑うつ神経症)、解離性障害(ヒステリー性神経症)、身体表現性障害、離人性障害(離人神経症)などがあるそうだ。(注2)
 小耳に挟んだことは原則的な事実のようだ。例外は、精神病の病態を示している場合である。
 さて、それでは労災はどうだろうか。
 厚生労働省の「精神障害の労災認定」(注3)の2ページには、10に分類された「精神及び行動の障害」(注4)が載っている。ここでは、「神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害」というものもある。障害年金では原則対象外の神経症も対象になっているのではないか、とも受け取られる。
 また、「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(注5)の2ページに「対象疾病のうち業務に関連して発病する可能性のある精神障害は、主としてICD-10のF2からF4に分類される精神障害である。」、「いわゆる心身症は、本認定基準における精神障害には含まれない」とある。(注6)
 F2は「統合失調症、統合失調症型障害および妄想性障害」、F3は「気分[感情]障害」、F4は「神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害」である。
 精神障害の労災認定の範囲は障害年金より広そうに見えるが、労災認定に必要な業務遂行性、業務起因性の判断にあたり、(1)認定基準の対象となる精神障害を発病していること、(2)認定基準の対象となる精神障害の発病前おおむね6か月の間に、 業務による強い心理的負荷が認められること、(3)業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められな いこと、の3つが重要な要件として吟味される。(厚生労働省の「精神障害の労災認定」(注3)の2ページ参照)
 以上の、メンタルに関する障害年金と労災の違いは、厚生年金保険法は「・・・労働者の老齢、障害又は死亡について保険給付を行い・・・」(第1条)、労災法は「・・・業務上の事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に対して迅速かつ公正な保護をするため、必要な保険給付を行い・・・」(第1条)とあるように、目的が異なることから、むしろ当然かもしれない。
 一般に障害年金の手続きは難しいことがあるといわれる。その上精神の障害は外からは分かりにくい。国の文書でも、例えば下記の注6を読んでも難解だ。
 受給できるかどうかなど、少しでも疑問がある場合は、年金事務所や労働基準監督署、障害年金・労災に詳しい社労士などに相談して迅速に解決を図った方が良いのはもちろんである。
 (注1)厚生労働省「精神・知的障害に係る障害年金の認定の地域差に関する専門家検討会」第1回(平成27年2月19日)資料2【https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12501000-Nenkinkyoku-Soumuka/0000075327.pdf
 (注2)https://www.mental-health.org/fuan1.html
  (注3)https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/rousaihoken04/dl/120427.pdf
 (注4)国際疾病分類第10回修正版(IC D-10)第5章「精神および行動の障害」に分類される精神障害で、F0〜F9の分類コードが付されている。
 (注5)https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/rousaihoken04/dl/120118a.pdf
 (注6)「精神障害の労災認定実務要領」http://www.joshrc.org/~open/files2011/20120330-001.pdfの3ページに「認定基準が「対象疾病のうち業務に関連して発病する可能性のある精神障害」を「主としてICD-10のF2からF4に分類される精神障害」としているのは、F0は器質性の原因によるものであり、F1は有害物質(精神作用物質)の使用によるものであること、F5からF9は、主として個人の生育環境、生活環境等に基づくものと考えられ、業務との関連で発病することはほとんどないことによる。」とあり、「また、「いわゆる心身症は、本認定基準における精神障害には含まれない」としているのは、心身症が精神障害の1つと誤解されている面があるが、その定義が、「その発病や経過に心理、社会的因子が密接に関与する身体疾患を言うが、神経症やうつ病など他の精神障害を伴う身体疾患は除外する」とされ、明確に区別されている・・・」とある。  


Posted by 青山拓水 at 14:31Comments(0)年金